2013年 松竹
監督:石井裕也
【あらすじ】
出版社・玄武書房に勤める馬締光也(まじめ みつや)は、営業部で変わり者として持て余されていたが、言葉に対する天才的なセンスを見出され、辞書編集部に異動になる。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」――見出し語は24万語。完成まで15年。編集方針は「今を生きる辞書」。個性派ぞろいの辞書編集部の中で、馬締は辞書編纂(へんさん)の世界に没頭する。 そんなある日、出会った運命の女性。しかし言葉のプロでありながら、馬締は彼女に気持ちを伝えるにふさわしい言葉がみつからない。問題が山積みの辞書編集部。果たして「大渡海」は完成するのか、馬締の思いは伝わるのだろうか。
アマゾンプライムで観てみました。プライム会員ならこの作品は無料で観ることができます。
いい作品でした。悪はないし、喧嘩や争いもない、その分劇的なラストに持っていくことのないゆったりとした時間が流れる上質な作品でした。最近観ている邦画は本当によくできた作品に巡りあえています。
主役の松田龍平さんのこのマジメ君の役は、まさにはまり役だと思いました。演技というより素の顔のドキュメンタリィーを観ているような気にさせ、自然体でありながら、それでいて飄々としている中に確固とした情熱が垣間見える演技は本当に素晴らしいと思いました。大好きな松田優作さんの息子さん達がこうして一線で活躍しておられるのをうれしく思い、また時間の流れの早さに感慨深いものがあります。
辞書の製作にかかる膨大な資料と時間、この年になって恥ずかしながら初めてしりました。まさにあっぱれです。サラリーマン人生のほとんどを辞書製作に費やすとは本当に好きでないと無理だと敬服しました。
今は亡き、加藤剛さんも上品ないい老いを演じられていましたし、妻役の八千草薫さんもやさしい役どころでほのぼのしました。
辞書の編纂という仕事に情熱を注ぐことで、人生を形作っていった男と彼を支えた人々を追いながら、声高に主張するでもなくこびるのでもなく、ただひたすらに主人公の仕事や、まわりの人々に対するぶれない静かな謙虚さを描くことを通して、人が人を理解し、つながりあうとはどういうことなのかを見つめたいい作品でした。